『スリー・キングダムス』日本初演へ期待高まる　伊礼彼方が語った“最後に全部繋がる”衝撃の物語とは

　『スリー・キングダムス』日本初演に向けたスペシャルトークショーは、舞台の持つ強烈な世界観と、そこに挑もうとするキャスト陣の覚悟がよく伝わる濃密な時間だったように感じます。サイモン・スティーヴンスの作品は、日常の隙間にある孤独や喪失感、そして社会の暗部を鋭く切り取る鋭敏さが特徴的ですが、今回のトークはその本質に、出演者自身がどれほど引き込まれているかを実感させる内容でした。

　まず印象的だったのは、演出の上村聡史さんが語った“ローカルからグローバルへ”視点が広がる作劇構造についてです。ロンドンで起きた猟奇殺人事件を軸に、ハンブルク、タリンへと舞台が移るにつれ、ただの捜査物語ではなく、ヨーロッパ全土に潜む巨大な闇へと物語が染み出していく。この広がり方は、観客にも強烈な異国感と没入感をもたらすだろうと想像できます。

　そして同時に、登場人物はみな喪失や欠落を抱えており、何かが満たされないまま世界を彷徨うような感覚に包まれています。上村さんが「穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるような喪失感」と語ったのはまさに核心で、単なるサスペンスではなく“心の深層に迫る旅”としての側面も際立っていると思いました。

　キャストの話も非常に魅力的でした。伊礼彼方さんの「最後に全部、繋がる」という言葉は、この作品が持つ構造上の快感を端的に表していて、観客は終盤にかけて一気に世界観を飲み込まれるはずだと期待を高めてくれます。浅野雅博さんの“攻めた演目”という言葉には、新国立劇場という大きな舞台にこの作品を持ち込む決断の大胆さがよく表れていました。

　音月桂さんの「初読では理解が追いつかないが、稽古で立体化するほど世界が広がる」という感想も、スティーヴンス作品の本質をよく示しています。脚本を読むだけでは見えない人の動きや感情の流れが、演じることで初めて浮かび上がるという演劇ならではの魅力。それを今回は三役という大きな挑戦で表現するとのことで、非常に楽しみです。

　また、言語の壁をどう扱うかという問題も面白いポイントでした。原作では英語・ドイツ語・エストニア語が入り混じりますが、それを“日本語で表現する”ことで、逆に文化の衝突や違和感を強調できるという伊達暁さんの話はユニークで、演出プランの核心に触れる内容でした。

　夏子さんが語った「遠いところに来てしまった感覚」も、この作品の象徴的なモチーフに思えます。国境を超えるという設定自体が、登場人物の精神世界の迷いとリンクしていて、観客にも“旅をさせる”ような時間になるのだろうと期待が膨らみました。

　今回のトークだけでも、この舞台がただの犯罪ミステリーではなく、社会構造、人間の闇、そしてヨーロッパの文化的背景を立体的に照射する挑戦的な作品だとよく分かります。日本初演としてこれを上演する勇気とも言える決断が、どのような化学反応を生むのか。初日の12月が待ち遠しくなる内容でした。